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2012年8月17日金曜日

体の部位に関する表現(5)=hair ― to a hair

今週のテーマ、髪の毛(hair)に関する表現は今日が最後ですが、"to a hair"という成句を取り上げたいと思います。

”きっちりと、寸分違わずに”、という意味で用いられると多くの英和辞書にあります。以前に取り上げた、"split hairs"のような表現からも、何となくイメージがわく、納得感がある表現のように思われます。

が、用例があまり見つかりません。あるオンライン辞書では下記のような用例が紹介されていました。


measure the ingredients to a hair (材料をきちっとはかる)


なるほど、という感じがしますが、ここで"to a hair"は副詞として用いられていると考えられます。

上記のソースは研究社の中英和辞典ということですので信用していいとは思うのですが、コーパスなどで調べてみてもこの"to a hair"という成句の実例が乏しく、個人的にどうもしっくりきません。

グーグルニュースで検索してみたところ、下記のような記事にあたりました。


Most AFL players make just $400 per game plus $50 bonus for wins, but starting quarterbacks average about $1,600. Raudabaugh’s salary is $1,675 per game, and that computes to a hair over $30,000 for six months’ work. And when the season ends, he’ll head back to suburban Dallas to work in the moving plant.
(Soul QB goes from moving-company worker to AFL star. Courier Post. July 27, 2012.)


フットボール選手のサラリーの話のようですが、コンテクストが金額に関することであり、"to a hair"という成句の出番であることは納得がいきます。

が、良くわからないのが、この成句に続く"over"です。選手の平均サラリーが1ゲーム1,675ドル、勝ちゲームでは50ドルのボーナス、云々で、トータルすると6か月できっちり("to a hair")3万ドル以上("over $30,000)になる、ということなのですが、”~以上”(over)というのと、”きっちりと、寸分違わず”という強意の修飾は相容れないと思いませんか?

そこで、"to a hair"と"over"、"above"などの組み合わせが気になったので色々調べてみると、実はその組み合わせで用いられていることが非常に多い(というかむしろそれしか見つからないようにも思える)ことが分かりました。


In December 1991, Citi's stock sank to an abysmal $8.50 per share, at which price this largest U.S. banking establishment was worth only about $4.2 billion, just a touch more than Microsoft's Bill Gates. The stock rose to a hair above $30 last April and was recently around $28.
(Fortune. 1993.)


そこでこの"to a hair"という表現に関する考察。

この表現は恐らく、"above"や"over"といった前置詞(あるいは副詞)とセットで用いられるのではないかと思います。きっかり、寸分違わず、という意味は、”~以上”と解釈される"over"や"above"と矛盾しているというよりも、例えば最初の例で言えば、髪の毛一本分("to a hair")だけ3万ドルを超えて、という解釈であり、それが実質無視できるほどの僅差であるということで、つまり逆説的な強意の表現として、"over"(above)以下の数字と寸分違わない、という意味として解釈されるのではないかと思います。

こうした考察から、本来辞書には"to a hair over (above)"と掲載されるべき表現なのではないかと思いましたが、いかがでしょうか。


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